小説「平場の月」 朝倉かすみ
話は、50才の主人公青砥が、中学時代の初恋の相手である須藤葉子に再会した日の思い出から始まる。1年前のその日のことを、青砥は彼女の表情や声のトーンまで細かく記憶している。
その再会からまもなく、葉子は進行性の大腸がんと診断された。ふたりはお互いの部屋を行き来する関係になり、青砥は、手術を受けてストーマを造設した彼女を愛情深く支える。
この小説は青砥健将という男性目線で語られているが、作者は私と同世代の女性だ。青砥は、恋人といえる関係になっても親友のようにふるまい、抑制のきいた思いやりをもって葉子に接する。この世代の女性が考える理想の男性像かもしれない。葉子の言葉でいうと、「男っぽいけど、でも、お母さんみたいにやさしい」。
しかし、葉子は、一時的に青砥の家で療養させてもらうことはあっても、少し元気になると「晴れやか」な表情で自分のアパートに戻った。「もっと助けになりたい」という青砥に対しては、「だれにどんな助けを求めるのかは、わたしが決めたいんだ」と固辞した。ひとりで生きていこうと決心して以来、長らく過酷な人生を歯を食いしばって生きてきた女性らしい言葉だと思う。
同世代の女性として深く共感できる部分が多く、心に沁みる作品。
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